大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)866号 判決 1974年6月17日
控訴人
国本一市
右訴訟代理人
山崎満幾美
外三名
被控訴人
有限会社近畿急配社
右代表者
三木昇治
右訴訟代理人
山本弘之
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一控訴人主張の日時、場所において、本件事故が発生し、亡トミエが頭蓋骨骨折等の傷害を受け、同日死亡したこと、右事故の加害車輛が被控訴人の保有であること、及び、右車輛の運転者沢村宗孝が当時被控訴人に雇われ、自動車運転の業務に従事していたことは、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、沢村宗孝は被控訴人会社において日頃本件加害車輛を被控訴人のため運行に供していたことが認められ、右認定に反する証拠はないから、他に特別の事情のない限り被控訴人は本件加害車輛の運行により生じた損害につき自賠法三条によりその賠償責任を負うべきものであり、本件については被控訴人の運行責任を否定すべき特別の事情についてなんらの立証もない。従つて、被控訴人は本件事故によつて生じた生命、身体上の損害につき賠償すべき義務がある。
二以下控訴人の慰藉料請求権の存否につき考える。
<証拠>をあわせ考えると次の事実が認められる。
1控訴人と妻きよみは、大正一三年二月二九日婚姻の届出をし、右両名間に同年四月一八日出生の長女英子他一名の子女を儲け、神戸市兵庫区馬場町において家庭生活を営んでいたが、控訴人は昭和一五、六年頃樋笠トミエと知り合うようになり、その頃から妻きよみとの間の円満を欠くようになり、次女の死亡したこともあてて、昭和一八年頃右住居を出て別居し、妻きよみもその頃長女英子とともに田舎に疎開した。
2その後間もない頃、控訴人は神戸市内に二階を間借りしてトミエと同棲し、その後同市兵庫区馬場町三六四番地に別の家を借りて生活をするようになつたが、終戦後妻きよみ及び長女英子が疎開先から戻り、右住居に入つたので、控訴人とトミエは昭和二一年頃同区湊町三丁目に新たに家を借りて生活し、同二五、六年頃さらに同区仲町西通に移転し、同所で喫茶店「だるま」を経営して、夫婦同様の生活を継続し、その近隣の者も控訴人とトミエが夫婦であると考えて交際してきた。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右認定の事実によれば、控訴人は、きよみという法律上の配偶者がありながら、昭和一八年頃からトミエと同棲し夫婦同様の生活を継続してきたものということができる。
三しかしながら、前掲各証拠によれば、控訴人は、トミエと同棲後の昭和二六年一二月二一日妻きよみとともに深見勇(養子縁組後国本勇)を養子に迎えて、長女英子と婚姻させ、その頃勇夫婦が神戸市兵庫区馬場町二四番地の一(きよみも勇夫婦と同居)において牛乳販売店を営むようになつてから、控訴人とトミエが営む喫茶店「だるま」で使用する牛乳等を右勇が経営する牛乳販売店から供与を受けていたこと、馬場町三六四番地の家は妻きよみ及び勇夫婦が管理し、妻きよみ及び勇夫婦が同町二四番地の一で牛乳販売店を営むようになつてからも勇がその賃借を継続して家賃を支払つているが、右家屋には控訴人が同所を出た後も控訴人の表札が掲げられたまま現在にいたつており、控訴人がトミエと同棲していた当時の控訴人の名刺(乙八号証)には喫茶店「だるま」の営業所としては仲町西通の家を表示していたが、自宅としては馬場町三六四番地を、さらに連絡場所として森永牛乳馬場町販売所として同町二四番地の一の妻きよみ及び勇夫婦の住所を表示し、控訴人の住民票上の住所もトミエの死亡後の昭和四四年一一月一三日にいたるまで妻きよみの住所である馬場町二四番地の一に置いたままとし、さらに、控訴人はトミエと同棲中にも馬場町三六四番地の家へ行き植木、鉢植等の手入をしていること、トミエ死亡後の昭和四七年一〇月頃控訴人は胃切除の手術を受けた後右馬場町三六四番地の家に戻り、同所で長女英子の世話を受けたが、妻きよみも時折食事等の世話をしていることが認められ、右認定に牴触する<証拠>は信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
四以上認定の事実から考えると、控訴人は亡トミエと夫婦同様の生活を継続してきたものとはいいながら、一方法律上の妻きよみとの婚姻共同体としての協力関係も全く絶たれたものといえず、控訴人と亡トミエとの関係がいわゆる重婚的内縁関係にあたり、右関係が長期間継続していたにせよ、喫茶店を経営していた仲町西通付近の住民に対する関係を除いては、対外的にも控訴人の生活の本拠として妻きよみが居住していた馬場町三六四番地、同町二四番地の一を表示し、妻きよみとの婚姻関係の存在を自ら表明していたものというべきであり、しかも右重婚的内縁関係の作出は専ら控訴人の不倫な行為にもとづくものであるから、このような場合においては、控訴人は民法七一一条の準用による内縁配偶者としての慰藉料請求権を有しないものと解すべきである。
五そうすると、控訴人の本訴請求はその余の点について判断を加えるまでもなく失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当で本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(小西勝 入江教夫 大久保敏雄)